伝わらなさのプロ

2021.10.26

デザイナーという仕事を説明するなら、「色や形、言葉の力を組み合わせ、あの手この手で誰かに何かを伝える職業」と言えるだろうか。ちょっと冗長かな。「言語化出来ない何かを伝える」お仕事とでも言おうか。

時には伝えるプロ!なんて言われてしまうこともあるけれど、自分のやっていることと照らし合わせると小さな違和感が残る。

実際は「伝わらなさを減らす」とか「伝わらないという事実に基づいて作戦を立てる」という方が体感に近い。人間はどうしても自分を基準に伝え方を想像してしまう。それを何度も何度も点検して、独りよがりじゃないかな。実際に見るとどう感じるかな。あの人だったらどうかな、とシュミレーションを時間が許す限り繰り返し点検する。

だから「こうすれば伝わりますよ!」なんて言うのは極端に言えば詐欺に近い。わかりやすさを優先して、「伝わるウェブサイト作ります!」なんて言いたくなるけれど、本当はかなり危険な考え方だと思う。

サッカー選手も「絶対勝ちます!」とは言うけれど、本当の意味で勝ちはコントロールできない。絶対点を取ることもできない。練習して改善できるのは、自分のミスを減らすことだけだ。そうやって自分の出来ることにフォーカスしている。

きっとそれは音楽家や小説家、いろんなプロたちも、うまくいくことを念頭に準備しない。うまくいかないことを念頭に準備する。うまくいかないはコントロールできるけれど、うまくいくは結果でしかないからだ。

「伝える」も同じだ。相手があって初めて「伝わる」。はずなのに、こうしたら伝わります!と安易に考えるのは、相手を過小評価しているか、自分を過大評価している証拠だと思う。「伝わる」はたまたまの結果にすぎない。時々、イラッとする広告に出会うけれど、それはその広告を作った人が「こうすれば伝わるでしょ?」と思っている下心が見え透いているからじゃないかな?と思う。

情報の受け取りてを尊重して、小さな工夫を積み重ねたり、小さな違和感を取り除いて取り除いて、0.001%でも伝わりやすいように積み上げていく。その時に相対しているのは、伝えることではなくて、伝わらないこと。それをした上で、こんな風に伝わって欲しいなーと言う小さなロマンを忍ばせるのだ。