アクティブデイ

2023.02.13

お昼の松屋中目黒店は混んでいた。U字型のカウンターを取り囲む10の座席はすべて埋まり、常時数人が後ろで座席が空くのを待っている。その列とは別に、テイクアウトを待つお客さんも数名いた。
狭い空間にこれだけの人がいて、それでも店殺伐としていないのは、店員さんの声かけが素晴らしいからだ。
「ありがとうございます、こちらへどうぞ。」「今少々お待たせしております。」「ありがとうございました、今こちら片付けますね。」「順番前後してしまいますが、こちら焼肉定食になります。」
常に適切な声かけがなされ、僕を含め待っている誰もが「あ、大事に扱われている!」と思っていたに違いない。

店員さんは接客担当の方と、厨房にもう1人。2人で混み合う店内を回していた。厨房からもたびたび声が届く。店内はおふたりの見事な連携で円滑にすすんでいた。すごい。
僕が牛丼をほとんど食べ終わるころ、少し客足が落ち着いた。厨房にいた店員さんが食器を下げに出てきたついでに、ひとこと
「今日、先週までとぜんぜんちがいますね…」と、声をかける。

「そうね、今日は、、、、、、アクティブ。アクティブデイ。」

お二人の控えめな音量の会話は、もしかしたら僕含め2-3人にしか聞こえてなかったかもしれない。しかし、この返答に僕は心を撃ち抜かれた。

コンマ数秒の間、店員さんは「忙しい」とか「混んでいる」とか「大変」といったネガティブな言葉を避け、別のことばを探していた。そして辿り着いたのがアクティブデイ。自分自身のためか、それとも食べているお客さんを思ってか。その心はわからない。けれど、意図して、意識して、アクティブという言葉にたどり着いたのは間違いない。

僕はとっさに言葉を選ぶのが苦手だ。あたまに思い浮かぶ言葉がそのまま口から出てしまう。というか、浮かんでくる言葉を発するのに一生懸命で、別の表現を吟味する数秒を持つことができない。願わくば、僕もアクティブデイを選べる人になりたい。

それにしても、松屋のこのお二人の時給は無茶苦茶高くあってほしい。